このたび、公益財団法人パブリックリソース財団 コロナ給付金寄付プロジェクトの第一回に採択されまして、応募の経緯やプロジェクトへの思い、今後の展開などを何回かに分けて活動報告としてまとめたいと思います。今回はフォスターミュージックさんに、インタビュー記事としてまとめて頂きました。
公益財団法人パブリックリソース財団 コロナ給付金寄付プロジェクトとは
ヤフー株式会社、日本最大級のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンク、公益財団法人パブリックリソース財団、そして心ある専門家有志のみなさんとともに発足しました。「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」として政府から一律給付される10万円を、資金的援助を必要としている団体や企業、個人を支援したいと考えている方にご寄付していただきます。それを原資とし、公益財団法人パブリックリソース財団が助成金の交付を行います。
公益財団法人パブリックリソース財団-コロナ給付金寄付プロジェクト
この『コロナ給付金寄付プロジェクト』を知ったのはいつごろでしたか?
緊急事態宣言が敷かれていた5月、ネット上で偶然見つけました。
この月は片っ端から仕事のキャンセルの連絡が相次いだもので、日本中を包み込んだ重々しい空気と相俟ってとにかく息苦しい時期でした。
そうですね。自分の生活はおろか日本も世界もどうなっちゃうのか、不安と焦りしかなかった気がします。
激変する世界の中で感じた一条の光
私たちにも給付された10万円の政府からの給付金を、自分のためでなく資金的援助を必要としている人たちの支援のために使いたいと考えている方からの助成金、ということなんですよね?
はい、その理解で良いと思います。 今回頂戴致しました助成に対して、まずは何より寄付してくださった皆様に深く感謝を申し上げたく思います。本当にありがとうございました。孤立しがちな芸術関係者に手を差し伸べてくださった公益財団法人パブリックリソース財団の皆様にも重ねて御礼申し上げます。
お恥ずかしながら私は自分のことしか考えられず、もちろんこのプロジェクトも存じ上げなかったのですが、公益財団法人パブリックリソース財団さんのコロナ給付金寄付プロジェクトについてなにか感じるところはありましたか?
災害のようにショッキングな映像が流れることはなく
(街から人が消えた映像はショッキングでしたが)
分かり易いストーリがあるわけでもない。
局地的なものでも束の間のものでもない。
世界は急激に姿を変えつつありましたが、その変容の最中においても想像力を持って他人を気遣うことのできる方がこんなにもたくさんいるのだと知ったことは一条の光にも感じました。
直接御礼を申し上げることが出来ないからこそ、きっちりとした楽譜を残して感謝の意とする所存です。
何か表現するためのきっかけが欲しかった
この募集に応募したきっかけはなんだったんでしょう?
当初は漠然とオロオロするばかりで、一日中目的もなくピアノの練習していたり・・
何かきっかけが欲しかったというのが応募のきっかけかもしれません。
その姿勢は表現者としてどうなんだと、自分でも思いますが。
文化・芸術・スポーツ分野助成基金の第一回で採択されて、しかも作曲家としてはおひとりでしたが、どんなお気持ちでしたか?
採択の連絡を受けた時はとにかく驚きました。
何一つ良い連絡などない時期でしたので、思わずもらした「えっ」という言葉に、妻が不安そうな顔をしてこちらを向いたことを覚えています。その後、HP上で発表された採択者の一覧を見て、改めて身の引き締まる思いが致しました。
ご自身では言いにくいかもしれませんが、どうして自分が採用されたと思いますか?
なぜ採択して頂けたのでしょう・・
私も聞いてみたいです。
光栄なことだと素直に受け止めております。
アマチュア奏者の独奏曲のレパートリ拡充を図る一歩を踏み出したい
実際に給付金が支給されることが決まってどんなことをしようと思いましたか?
今まで私が自身で行って来なかった広報活動を開始することと、アマチュア奏者の独奏曲のレパートリ拡充を図る一歩を踏み出したいと思いました。
なぜアマチュア奏者に、と思われたのでしょうか?
吹奏楽は、楽器を始めてすぐの子どもが演奏出来る曲からエゲツない曲まで、かなり幅の広い楽曲が当たり前のように共存していることが大きな魅力の一つです。
しかし、吹奏楽を構成する管打楽器の独奏曲においては…
・作曲家が曲を書く動機
・それが演奏される機会
というものを考えると必然的にプロフェッショナルな奏者を想定したものが多くなり、偏りは否定できません。
私も独奏曲をいくつか書いていますが、いずれも例外なく相当に難易度の高いものです。
普段学生やアマチュアの吹奏楽団と関わりを持つことが多いからこそ感じた違和感だったのでしょうか?
そうですね。
私は子どもの頃からピアノを弾いていますが、今も昔も弾く曲がなくて困るという状況はあり得ません。
超初級から超上級まで膨大なレパートリに恵まれているからです。
いろいろなご縁があり作曲家として吹奏楽の世界に身を置かせてもらっている現在、管打楽器の世界においても等しい状況に近づけば良いと思っていました。
今回のコロナにおける社会の変遷がなければ、思っていただけで中々やろうとはしなかったでしょうから、良い機会になったと思いたいです。
作品はアマチュアに向けたもの、というお話しでしたが今回のプロジェクトにNHK交響楽団の菊本和昭さんという超一流プレイヤーを選ばれたきっかけはなにかあったのでしょうか?
別件で 菊本さんと連絡を取っていた際、ふとした流れで今回の話が進みました。
後でお話しすることになると思いますが、今まで彼と取り組んできた作曲・演奏の根底にある思いが現下の情勢と結びついたのかなと感じています。
菊本さんとは以前からご縁があったのでしょうか?
同い年であり共に兵庫県出身ということで、昔から色々声をかけていただいています。
私が言うのものなんですが、これ以上いないのでは?と思うくらいの The 関西人。
深く人情味に溢れ、健やかなる時も病める時も(笑)
温かい手を差し伸べてもらい、もう頭が上がりません。
活動を関東に移されてから、より一層パワフルになられました。
日本屈指の奏者の想いと自分が描いていた景色がリンクした
菊本さんとは今回の作品に関して実際にどんな話をされましたか?
トランペットのレパートリーには音楽史上、ほんの少しの空白期間があります。
また、先にも申し上げた難易度の偏りも割と顕著です。これらは作曲家サイドの問題だけではないのです。
菊本さんからこれまで頂戴してきた作曲の話はいずれも、この不満足を解決しようという明確な意図の下にあるものではないか・・
今まで、彼のリサイタルのためにいくつもの曲を書かせてもらいましたが、その打ち合わせの際、常々このように感じておりました。
トランペットというとやはり花形楽器ですので、聴衆がその華やかな超絶技巧を堪能したいというような想いもまたそんな偏りを産んでいるのかもしれないですね。
日本屈指のプレイヤが塗り替えようとしている地図は、図らずも私が朧げながら見ていた景色に近しいものだったと言ってよいと思います。
結果として、多少なりとも力になっていれば良いのですけれど・・。
今回もこのような認識のもと作曲に臨むようお話しをしました。
学生の持つ想像力や感受性に一方的な制限を設ける必要はない
プロフェッショナルに書くときと、アマチュア向けに書くときの差というか、思い入れの違いみたいなものはありますか?
アマチュア向けの作曲は芸術的、商業的な性格だけでなく教育的な設計が求められるということもあり、特有の難しさは間違いなく存在します。ただ、それは言葉の違い、平たく言えば技術的な違いであって、曲の持つ性格についてはあまり意識しないように心がけています。学生の持つ想像力や感受性に一方的な制限を設ける必要がないと考えているからです。私が作曲するのですから私が感じたものが全てです。それ以上でもそれ以下でもありません。演奏もまた然りです。
出来る限り多くの奏者が取り組めるような作品を
今回のプロジェクトで進めている楽曲について詳しく教えてください。
ピアノ伴奏付きの管楽器のための独奏曲が一つ。
トランペットを念頭に置いて作曲していますが、
中高音域木管楽器などでも演奏出来るよう考えています。
もう一つは無伴奏トランペットのための小さめの組曲。
私の勝手なイメージかもしれませんが、無伴奏独奏曲というのは相当にハイレヴェルな難易度を持つ現代曲になりがちです。
私も一度そのようなものを書いています。
先にも述べた通り、委嘱や演奏の機会を考えるとこれは当然の帰結なのですが、
今回はそうではなく、いずれの曲も出来る限り多くの奏者が取り組めるような内容にしたいと考えています。
このプロジェクトにあたり新しく購入した資料ですとか、導入した機材やシステムなどはありますか?
今までノータッチだった DAW の世界に少し足を踏み入れました。「インターフェイスとは何ぞや・・?」から始まっているので思った以上に道は険しいのですが、新しい世界はとても楽しいです。
こう言っては失礼ですがとても意外です。
クラシック音楽は書いた譜面が完成形態であって、その後は演奏者に任せっきりなものです。
自ら音源を製作するとはどのように聴いて欲しいかということを冷静に設定することであり、今までは思いもよらなかった思考です。
現在は、先のピアノ伴奏付き楽曲をオーケストラアレンジしたものをピアノ譜と合わせて制作しており、参考書とにらめっこの日々です。
アンサンブル作品の多様化をソロ作品にも広げるのはまさに今
このプロジェクトの今後の展開について教えてください。
今回のコロナ給付金寄付プロジェクトの申請を行った5月ですが、全日本吹奏楽連盟より全ての秋季事業の中止が発表されました。
コンクールや演奏会以前に、そもそも大人数での合奏の再開にはかなりの困難を伴うだろう・・
発表の場どころか練習の場すら持てなくなった子どもたちのことを思うと、とても辛かったです。
ここ数年、いわゆるアンサンブル作品は良い意味で多様化してきたと思いますが、
その流れをソロ作品にも広げるのはまさに今ではないか。
私自身もまだ経験のない楽譜ですが、今後も継続的に取り組みたいと考えています。
ほかの音楽家やこれから音楽を志す人に向けたメッセージをお願いします。
芸術活動とは自身に発した感情を人に伝えること。
感じていないものを表現することは出来ません。
目を閉じなければ、映った景色はいつか必ず音楽になると思います。
目さえ閉じなければ。
我々出版社もこのプロジェクトを通じて幅広く日本の管楽器独奏曲を広げていけるようサポートさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。